書くこと、編むこと、伝えること

食のダイレクター、編集者、ライター、イギリスの食研究家“羽根則子”がお届けする仕事や日常のあれこれ

いちいちハンディをつけなくてもよろしい

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インテレクチュアルでない、教養がない、ってことの表れかも知れませんが、

私はクラシック音楽に疎い。

聴く環境になかったし、

ティーンエイジャーからはインディー&オルタナ街道まっしぐら。

洋楽オタクってやつです。

 

が、イギリスに住んだとき、気づいたのは、

若さの象徴のようなポップスもロックも、それこそインディー&オルタナも、

クラシック音楽という素地の延長上にあるってこと(ついでキリスト教的なことも)。

クラフトワークなんて、クラシック音楽の真っ当な後継者って気がするもんね。

 

ああいうのは、教養なくしてできない。

その教養ってのは、子供の頃からの環境要因も大きく、

現在のそれは、ヨーロッパに起因するわけで、

本物を美術館なり演奏会なりで、しかも日常のなかで体験している、

この差は大きい。

 

 

毎年9月上旬のロンドンは、

8週間にわたって開催される、クラシック音楽の祭典“BBCプロムス”がクライマックスを迎え、

ロイヤル・アルバート・ホールでの最終夜の模様は、ラジオでもテレビでも放送されます。

「ルール・ブリタニア」「威風堂々」などの、いかにも大英帝国的な演奏が繰り広げられ、

「ゴッド・セーヴ・ザ・クイーン(キング)」「蛍の光」で幕を閉じる。

観客席に目をやると、この日のためのきれいに着飾った人、イギリスらしいモチーフ(サッカーチームのユニフォームとか)を身につけた人、国旗を振りかざす人など、いわゆるフツーの人もたくさんいて、必ずしもお高い感じでないのが、いい。

 

普段は“今さら大英帝国かよ!”って思っている私ですが、

このときばかりは、いやはや歴史と底力を痛感する次第です。

 

 

このBBCプロムスに、2013年ピアニストの辻井信行氏が登場しました(↓)。

www.youtube.com

私、それまで彼の演奏を聴いたことがなくって、

というのも“全盲なのにすごい”のお涙頂戴ストーリーに心底うんざりしていたのです。

そんな風にゲタをはかせなくっていいのに。。。

 

で、最近になって、このBBCプロムスでの演奏を聴いて観て、いたく感動してしまったのです。

 

技術的なこととか全然わからないけれど、

包み込むようなやさしさがあり、この人は本当に音楽がピアノが好きなんだなぁ、というのをひしひしと感じる。

そして、それをオーケストラが微笑むように応えているのも素晴らしい(丁々発止のバトルじゃなくってね)!

 

 

もうさ、メインストリームでない人がその世界で活躍しているときに、

全盲とか、障害者とか、女性とか、子供とか、外国人とか、

本筋ではないことを前面に出すのはやめようよ。

 

ただのピアニストでいいし、ただの政治家でいいし、ただの起業家でいいじゃん。

余計なことを言うから本質が見えにくくなるし、

もちろん、たとえば、辻井氏の場合はピアノまで誘導したり、そういうのは人として手を貸すのは当然としてね。

でも、それって誰しもそういう部分あるんじゃないの?

 

メインストリームから外れた人のハンディの部分を強調するのって、本人に対して失礼だと思う。

こういう人でさえ、こんなに頑張っている、っていうのは、

憐れみであって、やさしさななんかじゃ全然ない。

同じ土壌でしっかり勝負してもらって、受ける側もしっかり評価するのがやさしさなんじゃない?

ricorice.hatenablog.com

 

それにしても、BBCプロムスの最終夜、ロイヤル・アルバート・ホールで生で観賞してみたいな。